夏の終わり、秋の始まり

波の音で目が覚める。

 

見なれない天井とあたりに散らばる僕の残骸を見て、自分が海沿いのコテージにいて、昼食の後、何度か彼女と交わって、そのまま寝入ってしまったのだと言うことを思い出した。
隣を見ると、真白なシルクのシーツに身を包んだ裸の君が無邪気な寝顔を晒している。枕元に置いた腕時計を見ると、時計の針は午後六時過ぎを指していた。ベッドから身を起こして窓際まで歩いて行くと、空は既に紫と橙色に染められていた。
彼女が目を覚まして、ベッドが硬いせいで、腰が痛くなったと不満を訴える。もうすっかり夕方だよ、と告げると、彼女はベッドから起き上がって、もう少し暗くなったら、花火しよっか、買ってきておいたんだ。とそう言った。

 

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僕はズボンを履いて、彼女は生まれたままの姿でコテージの庭に出る。そんな格好で、外に誰かいたらどうするんだ、と彼女にふざけて聞くと、それはそれでいいと思うわ。と軽くあしらわれた。ここは、僕が死んだ父から譲り受けた寂れた海岸にぽつんと建つコテージで、ここに来てから三日、僕らの他には誰にも会っていなかったから、まぁ、今夜に限って誰かが通りかかることもないだろうとは思う。

彼女が一本目の花火に火をつける。紅い光が弾けて、彼女の横顔と滑らかな白い肢体を照らす。僕は煙草に火を付け、大きく息を吐き出した。花火の白煙と煙草の紫煙が絡み合って空へ消えて行く。
柔肌に火花がとんで熱いのだろう。時たま胸の蕾を摘んだ時のように、背中が小さく跳ねる。それがなんだか可愛らしく思えて、彼女の肩まで伸びた髪を指で漉く。
中空に浮かんだ満月が僕らを見下ろしていた。その月が、海の彼方で秋が目覚めたことを僕に知らせる。涼しい風が僕らを撫ぜる。寒いね、と彼女が呟く。僕はその頼りない細い肩を壊れるくらい強く抱きしめた。

 

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昼間あんなにしたのにすごいね。そう笑っていくつか小さな袋詰めの僕の残骸を増やした後、子供のような顔をして眠ってしまった彼女のツルッとした陶器のような腹部を月明かりが照らす。夏が終われば、僕らはまた離れ離れだ。僕はそれが悲しくて堪らなくて、でもどうしようもなくて、腕時計の針を巻き戻す。何周も何周も、夏が終わらないようにとも必死に願って。

 

波はそんな僕の努力を嗤う様に淡々と砂浜に打ち寄せ続けていた。