初夏

「お前ら付き合ってんだろ?」
アイツがまた後ろの席で友人達にからかわれている。たぶん、私とのことだ。違ったら怒る。
「別にそんなんじゃねえけど」
アイツはいつもどおりの文句で投げやりに否定を繰り返す。
おっといけない。気がつけば口角が上がっていた。
私はニヤニヤしている顔を誰かに見られないように机に突っ伏して寝たふりをすることにした

          ◇
  
「へぇ、こんなになっちゃうんだ。私で興奮したの?」
私は、いつか誰かが学校に持ってきた過激なティーン雑誌で見たよりもずっとグロテスクに映るアイツのそれを汗ばんだ右手で弄ぶ。
「別にそんなんじゃねえけど。」
アイツは顔をそむけながらそんなふうにつぶやくのでちょっと意地悪をしたくなった。
「ふーん、じゃあやめちゃおっかな。」
その途端にそっぽを向いていたアイツが、おもちゃを取り上げられた子犬のような顔を私に向ける。それだけで私は背中が痺れるような気持ちよさを感じてしまう。
初夏のぬるい風が裸の私達を包み込んで一つにしていく。


汗か、もっと違う体液か何かで湿ったシーツがひんやりとしていて少し気持ちよかった。腕枕をされていると、アイツの上がっていた息がだんだんと落ち着いていくのを感じた。制服の上から見ていたよりも厚く感じる胸板を伝う雫がすごくいやらしいと、私は思った。

           ◇


私のベッドに裸で寝転ぶアイツの耳元で私はささやく。
「『そういえばアイツの童貞芸を最近見ない』って一昨日言われてたよね。やっぱり卒業しちゃったからできなくなったの?」
アイツが私の耳を食む。

「別にそんなんじゃねえけど」
とアイツは言わなかった。